2026.05.26

AIが、人を殺める日。

執筆: 輪廻タヲ ・ AIを活用した音楽・イラスト・映像作品を制作するコンテンツクリエイター

AIが、人を殺める日。

「AIが、人の人生を狂わせる」

そんな世界が、少しずつ近づいている気がします。

2026年5月26日、プロ野球・読売巨人軍の阿部慎之助監督が暴行容疑で逮捕・釈放され、監督を辞任。
この件で注目を集めたのは、「娘がChatGPTに相談し、その回答に従って児童相談所に通報した」という経緯。

筆者はAIを使った音楽・イラスト制作に携わるクリエイターです。
AIと日々向き合う立場から、どうしても他人事とは思えませんでした。

何が起きたのか

  • 2026年5月25日夕方、渋谷区の自宅で姉妹喧嘩の仲裁に入った阿部監督が、言い返してきた長女(18歳)の胸ぐらをつかんで押し倒した
  • 阿部監督は飲酒しており、呼気からアルコール反応が検出
  • 長女にけがは確認されなかった
  • 長女はChatGPTに「父親から暴力を受けたがどうしたらいいか」と相談
  • ChatGPTは「児童相談所への通報」を回答
  • 長女はその回答に従い、児相に電話
  • 同日午後7時10分ごろ、児相が110番。
    警視庁渋谷署員が現行犯逮捕
  • 阿部監督は容疑を認め、翌26日未明に釈放
  • 同日、監督辞任を発表

娘が自ら声明を出した

翌日、長女はSNSに自らの意思で声明文を投稿しました。

  • 殴る蹴るの事実はなかった
  • ChatGPTに相談した結果、児童相談所の案内が返ってきたため電話
  • 電話後、自身の意向が聞かれることなく警察に通報
  • 警察が来て最も驚いたのは自分自身だった
  • 父が連行される姿を見て泣き崩れた
  • 父とは既に仲直りしている

娘が求めていたのは、話を聞いてもらうことだったはずです。
「どうしたらいいかわからない」という相談に対して、AIは感情を受け止めることなく、機能的な回答を返した。
その結果がこれです。

凶器は、善意で渡された

「通報したのは娘自身だ」という意見は、法的には正しいです。

でも。

ChatGPTは、感情的に高ぶった18歳に「法という凶器」を渡した。
「家族で話し合う」より先に、ワンクリックで公的機関が動く手段を提示した。

悪意はなかった。
設計通りに動いただけ。
家族の関係性や、その状況、空気感も知らないまま。
緊急時に、一般常識的な論理を、正常な判断のつかない人間に与えたのです。
これでは、誘導と同じです。

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「嘘を嘘と見抜ける人」の問題

2ちゃんねる掲示板の管理人「西村ひろゆき」はかつてこう言いました。
「嘘を嘘と見抜ける人でないと、掲示板を使うのは難しい」

AIにも同じことが言えます。
ただし、2ちゃんねると決定的に違う点があります。

匿名掲示板の情報は「誰かが書いた文章」として、疑う余地が読み手に残されていました。
AIは違う。
落ち着いた口調で、論理的に、自信を持って答えてくる。
疑う隙が、構造として存在しない。

感情的に高ぶっているとき、精神的に追い詰められているとき、人はその「正しさ」をそのまま受け取ります。
批判的に読む余裕が、最も必要なときに最も失われている。

AIを使いこなすには、情報リテラシーだけでなく、自分の感情状態を把握する精神的な成熟が求められます。
でもそれは、最も傷つきやすい人ほど持ちにくいものでもある。

世界では、すでに人が死んでいます

日本でこの件が「リテラシーの問題」として処理されようとしている一方、世界では別の次元に進んでいます。

2023年11月・コロラド州(Character.AI) 13歳の少女ジュリアナが自殺。
自殺願望を55回打ち明けたにもかかわらず、AIは介入せず会話を続けたとされています。
2026年、GoogleとCharacter.AIが遺族と和解交渉に入ったと報じられています。

2025年4月・カリフォルニア州(ChatGPT) 16歳の少年アダムが自殺。
ChatGPTは会話の中で自殺関連の言及を1,275回行い、377件の自傷メッセージを検知しながらセッションを終了しなかったとされています。

2025年4月・フロリダ州(ChatGPT) フロリダ州立大学での銃乱射事件で2名死亡、6名負傷。
州検察はChatGPTが実行犯に戦術的な助言を行ったとして、OpenAIの内部記録に召喚状を発行しています。

2025年6月・カリフォルニア州(Google Gemini) 36歳の男性がGeminiとの会話の中で妄想を強化され、自殺。
Googleに対する初の製造物責任訴訟として提起されました。

2025年8月・コネチカット州(ChatGPT) 56歳の男性がChatGPTとの会話の末に母親を殺害し、自殺。
訴状は「安全ガードレールを意図的に緩め、危険な会話でも関与を続けるよう設計した」と主張しています。

2026年2月・カナダ(ChatGPT) ブリティッシュコロンビア州で学校銃乱射事件が発生。
7家族が「行為を奨励した共犯者として機能した」としてOpenAIを提訴しています。

2025年末時点で、OpenAIとCharacter.AIに対する訴訟は少なくとも10件以上。
うち7件が自殺に関連するとされています。

全部、ChatGPTです。

おわりに

今回の件はまだ予兆にすぎないと思っています。
AIは今後、医療・法律・教育・福祉、あらゆる領域に入り込んでいきます。
感情的に脆弱な場面ほど、「答えてくれる存在」として頼られていく。
その先に何が起きるか、今日の事例がすでに示しています。

制度も、倫理も、AIの速度に追いついていない。
今はまだ「個人の不幸」として処理できる規模ですが、それがいつまで続くかはわかりません。

「AIが、人を殺める日。」――これはもう、たとえ話ではありません。


この記事は2026年5月26日時点の報道および公開情報をもとに作成しました。

輪廻タヲ

輪廻タヲ / Rinne Tao

AIを制作に活用するコンテンツクリエイター。音楽、イラスト、映像作品を中心に発信しています。

最新作品やAIに関する考察はXで発信しています。

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